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中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会が香港の選挙制度見直し案を可決し、香港民主派が選挙から徹底的に排除されることになった。
中国共産党政権のコントロール下にある香港当局は、香港国家安全維持法を用いて民主活動家らを不当に逮捕してきた。今回の制度改悪により香港立法会(議会)は議案を承認するだけの全人代のような疑似議会機関に堕す。民主化への死亡宣告に等しく断じて容認できない。
新たな選挙制度の下では、資格審査委員会が設けられる。「愛国者による香港統治」を掲げる習近平政権の意向に沿ったもので、立法会や行政長官選挙の候補者が「愛国者」か否かが判断される。親中派で占められる見通しの同委員会の審査をパスしないと選挙に出られない仕掛けだ。
これでは、中国共産党に忠誠を誓う人物しか立候補できなくなるのは、火を見るより明らかだ。民主派の立候補自体が認められないのであれば、選挙を通じて民意を政治に反映させる民主化の道は完全に閉ざされることになる。
立法会選では、これまで定数の半分を占めていた直接選挙枠が約2割にまで削減される。香港の民主化運動が掲げてきた主な目標は直接選挙枠の拡大だった。この面でも大きく後退した。12月に再延期された立法会選、来年3月の行政長官選が新制度の下で行われてしまえば、香港は中国共産党に忠誠を誓う人物だけが立候補し、統治することになるだろう。
米国務省は、中国による香港の選挙制度見直しについて「強く非難する」との声明を発表し、香港の旧宗主国である英国のラーブ外相も3月30日、「香港の人々の自由を損なう」と批判した。
懸念されるのは、日本政府の対中姿勢だ。外務省は、「重大な懸念」を表明し、「高度の自治を大きく後退させるもので看過できない」との談話を発表した。
だが、ウイグル人の人権問題をめぐる対中制裁には先進7カ国(G7)では日本だけが加わっていない。批判するだけでは何もしていないのと同じである。
4月には菅義偉首相が訪米しバイデン大統領と会談する。人権重視のバイデン政権と歩調を合わせながら、中国と対峙(たいじ)していくには相応の覚悟が必要となる。欧米諸国と連携し、対中制裁も辞さない断固とした対応をとるべきだ。
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2021年4月1日付産経新聞【主張】を転載しています